February 2009
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孤独の離脱(6)
一話 自分からの離脱(6)
昨日は結局寝れなかった。沙希は「明日早いから」といって早々に床についていたけど、僕はどうしても眠れず、寝たのは一時間とかそんなもんだった。 「じゃあ、いってくるね」 沙希は僕を揺り起こしてそういった。まだ日は昇っていない、真っ暗な部屋の中で沙希の輪郭はぼんやりとしていた。 「待って」 「でも、もう行くことは決まってるから」 「そこら辺まで送っていきたい」 「そう……じゃあ、おねがい」 彼女はもう持ち主が帰ってくるかも解らない部屋の戸締まりをする。それなら、また戻ってくるのだろうか。それとも、ただの習慣か。 「もう戻ってこないかもしれないから、鍵はあげるよ。部屋も好きにしていいから」 「でも……」 「戻ってきたとき返してくれればいいよ。ただ持っててくれるだけでいいから」 「……じゃあ預かるだけね」 ...
孤独の離脱(5)
一話 自分からの離脱(5)
いつの間にか、もう朝だ。 沙希が魔法使いを自称するようになってからどのくらいの時間が過ぎたのかなんて忘れてしまったし、最後にそういっていたのは確か正月だけど、今がいつだか解らないからそれもずっと昔に感じられる。 それでも窓から注いでくる朝の光は最後のとき同じで、透明で青い色をしていた。これも無駄なものがなくて、きれいで素敵なものだ。カーテンの隙間から柱のよう差し込む光の中に指を浸して、そんなことを考えていた。真冬の光のくせに指先を温める熱を持っている。そこには誰かが名前をつけた赤外線って名前の光がが含まれていて、光が柱のように見えるのにも、やっぱり知らない誰かがつけたチンダル効果という名前がついている。だけど、そんなきれいなものに名前をつけたひとはきっとこの光と違って汚いものだったはずだ。名前なんていらない。 ...
孤独の離脱(5)
一話 自分からの離脱(5)
沙希はどんどん魔法使いらしくなっていく。今もたくさんのアロマキャンドルに火を点けたりしている。 「何やってるの?」 「魔法の練習」 短く返されて、またろうそくの方をじっと見ている。じぃっと見つめていたろうそくに火が点いて、それから堰をきるようにすべてのろうそくに火が点いた。ほんとにもう魔法使いなんだな。 部屋にむせかえるような甘ったるいにおいが満ちる。 「どう?」 「どうといわれても……すごいんじゃん?」 目の前で起きていることは非現実的でどうコメントしていいのか悩む。僕は魔法を使えないからそれがすごいのか解らなくておざなりな返事になってしまう。 「…………」 それを聞いているのか、いないのか、またろうそくの方をじっとみて、こんどは順々に火を消していった。 「出かけない?」 「コンビニ?」 ちょうど腹も空いていたし、それならいいかもしれない。...
孤独の離脱(4)
一話 自分からの離脱(4) いっちゃった。 さて、どうしようかな。春巳がコーヒーを入れてくるまでわたしはなにをしていようか。 ごおぉぉぉ、とうなっているストーブ。まだ点けたばっかりで、くさい空気ばかりをはき出している。 「窓でも開けよう」 二重の窓を開けて、換気をする。外の凍った空気が部屋の中にゆっくりと入り込んでくる。窓から顔を出して、わたしは頬にさすような冷たさを感じる。あぁ、いまは冬なんだなって実感をもつ。好きな瞬間のひとつだ。 「んー……」 きもちいい。寒いのは好きじゃないけど、こうやって、少しだけ寒さを感じるのは好きだ。生きていることの実感めいたものを感じられるからだ。わたしはちゃんと寒さを感じられている。 当たり前のことなんだけどね。 「はぁ……」 これ以上してると部屋が寒くなっちゃうから、少し惜しいけど窓を閉めることにする。換気ももう十分できてるはずだ。 ...
孤独の離脱(3)
一話 自分からの離脱(3)
冬休みは終わった。 制服に袖を通すのも久しぶりだ。今日からまた辛い生活に戻る。覚悟は何日か前からしているけど、だからといって辛くなくなるなんてことはない。 「はぁ……」 憂鬱だ。鬱屈とはしていない。気が重いだけだ。 制服にはすでに着替え終わっていて、あとはコートを着込むだけだ。朝食も摂らないから朝の準備に時間がかかるなんてことはない。 安物のコートは重く湿気っているみたいで、気持ちまでまた重くさせられる。沈降した気分をさらに辛くさせられる。胃が痛くなりそうだ。 「さよなら」 ...
孤独の離脱(2)
一話 自分からの離脱(2)
「もう人いないね」 「午後だしね」 正月の午後。正確な時間は判らないけど、雲におおわれた太陽は天頂よりも西にある。 「あっ、まだ屋台でてるよ」 なんてはしゃぐ彼女。人もまばらで、屋台の大部分が撤収しているけど、まだ参道沿いにいくつかやっていた。 「帰りにたこ焼き買っていこうよ」 「そうだね」 「ほら、冷たいんだ」 近所の別に大きくもないけど、近くでは一番大きな神社。もう何時間か前までは人が沢山いたはずだ。いまは本殿の前で何人かが賽銭を投げたり、交代に鈴を鳴らしたりしている。 「こうしたらいい?」 「あぁ……手が冷たいから温かくなるね」 下を見れば手がつながれていた。温かくて、しびれる。きっと幸せだ。 「不機嫌?」 「別にそんなことはないと思うけど」 ...
孤独の離脱(1)
一話 自分からの離脱(1)
僕の部屋はハロゲンヒータの暖かな空気と幸福でみたされている。
たぶん。よくわからないけど。幸福は目に見えるものじゃないし、何かを通じて感じられるものでもない。だけど、暖かな空気は肌を通して、間違いなく感じられる。それはきっと幸せなことで、やっぱり僕は幸せなのかなぁ……と考える。これが本当なのかは解らないけど。
「ねぇ、わたしさ……」
「……なに?」
沙希は疲れているのか、後に続く言葉がいい出しにくいのか、大きなため息をついた。
「……魔法使いになっちゃった」
「そう……」
「反応薄いね」
「何度も聞いたからね」
それから、午前中の光りもあふれている。透明か青色みたいな色の光りだ。さっきまでは、あつい息とか、嬌声とかもありふれていて、それは部屋の外にもあふれ出ていた。あつい息と、嬌声と。そのふたつと僕たちの幸福でいっぱいだった。
「でも、今回は本当だよ」
彼女は、...